【第3話 失望とヒカリ】
–光を見失ってからじゃないと
気づけない
私の弱さよ
そして
人生の儚さよ–
母が病に倒れて
店はしばらく休業になった
会社では何処か自分の居場所を
見つけられずにいた
夏休みと溜まっていた有給休暇と
母の看病もあり
長めの休みをとった
パン屋には似つかない
カレーの様子を見てきてくれと
母に頼まれたのもあり
店の掃除を含めて行くことにした
行くのは大学卒業してを最後に
足が遠のいていた
バターの優しい香りと
カレーのスパイス
すると
女性が訪ねてきた
「お店はやっていますか?」
それが彼女との出会いであった
「もう一度カレーパン を食べたくて」
それから休みのあいだ
パンを作ることにした
彼女の言葉が心に残ってしまったから
自分がやりたいことがそこにあるのか?
自分自身に問うように
パンを作り続けた
また彼女が訪ねてきたときの為に
「次来るときには店をオープンさせるのでカレーパンを買いに来てください」
それから
彼女は店に訪れることはなく
小さなそんな約束のことは
忘れてしまっていた
–まだ覚えているよ
あの日のことは
記憶に刻まれている
絶望の中から
それはあまりにも
優しい味だったから
少しだけ
期待してしまったんだ–